SSブログ

入船亭扇辰独演会 〜扇辰落語手帖〜 [落語]

入船亭扇辰独演会 〜扇辰落語手帖〜
於:中野 なかの芸能小劇場

入船亭辰むめ『千早振る』
入船亭扇辰『権兵衛狸』
入船亭扇辰『江戸の夢』

扇橋師の会から居続け。失礼ながら前回はかなり空いていたので油断していたのだが、今日はかなりの入り。少なくとも前半分はびっしりだし、真ん中のブロックの席はほぼ埋まっていた。あっぶな。

辰むめさん、無事楽屋入りしたそうで、「胃が痛くなるような毎日」なのだとか。
本人の名乗りのイントネーションだと「たつうめ」に近いか。扇橋師は「たつんめ」と発音していたようだが、さて。個人的には「辰ンめ」とカタカナの「ン」それもパソコンじゃ出ないけど小文字のイメージ。なんとなく江戸っ子っぽいじゃないですか。しらんけど。
ところどころ扇辰師っぽいところもあるけれど、なんか落研っぽいような印象も受けた。

扇辰師の一席め、「今日はありがたいというか酔狂というか、この前の扇橋の会から通しでいらっしゃる方がかなりいるらしいですな。じゃあ今日は『たらちめ』と『ねずみ』を……」。出ました弟子殺し。まあホントにやったことはないけど。それにしても個人的な印象としては扇辰扇橋師弟をセットで追いかけている人って結構いるように思う。まあ俺もそうなんだけど。多分もともとは扇辰師の贔屓で、その弟子もいいのでいつの間にやらというパターンな気がする。
「2月の終わりから3月上旬まで休みを取ってバリへ行ってきたんですが……。残念ながらカミさんと。噺家仲間と行けば何かしらマクラになるような珍道中にもなるでしょうけど、カミさんと一緒だからねえ。ご家庭をお持ちの方はおわかりでしょうが、面白いことなんて一切ない。毎日ダラダラしてビール飲んでました」。とはいえさっきの扇橋師の話を聞いてたから、内心ニヤニヤしてた人も多いんじゃなかろうか。
「事件といえばひとつだけ。朝方電話が掛かってきたんだけど出なかったんだよ。どうせ大した用事じゃねえだろうって。そしたら留守電が2件入ってる。聞いてみたら『隣のH谷川ですけど! カゴが出てませんよ!』ってすごい怒っている女の人の声が入ってた。……町内のゴミ収集所のカゴを出す当番だったんだ。家のことは弟子に任せていたんで辰ぢろに電話してみたらアイツその日に遅れたらしいんだ。しょうがないから電話して謝って。……それくらいですなあ」今は海外でも普通につながるようになったけど、それでもそんな用件で国際電話って。
「で、帰国して一之輔んとこの喜いちに稽古をつけてたらピンポーンて。稽古を中断して出てみたらH谷川さん。殺虫剤スプレーとハエたたきを持って『ハクビシンが出たの』って……。『裏のM上さんちの犬小屋まで追い込んだから手伝って』って。なんで俺に言うんだよって思ったけどさあ、ゴミ出しの件があるから強く言えねえんだよ!」とご近所警察を巻き込んでの捕獲騒動に。
「ハクビシンが出てきたんだけど、警察が『あれ狸だ』と……。アタシゃあ噺家としては見逃してやるべきなんじゃないかと。そうすれば夜中に『んばんは、はぬひへふ』ってくるんじゃねえかって……」。と狸騒動でかなりの時間をかけていた。
そこから『権兵衛狸』に入ったので導入部を聴いた途端会場は爆笑。そりゃあ狸を捕まえる噺だもんなあ。

仲入り前の抽選会で「噺よりもマクラの方が長かった。喬太郎かって」と反省?しきり。
「そういやこないだのこの会で色紙が当たった方が紫檀楼古木の末裔だってことがあったね。こないだは『徂徠豆腐』を掛けたら、荻生徂徠の末裔だって人が楽屋を訪ねてきた。そういうことがあるんだねえ。……今日はそういう人はいませんか」。父方の先祖は長野の高遠藩の藩士だったそうだが、なんかあるかなあ。ないだろうな。

二席めは一切のマクラも導入部もなくダイレクトに噺へ入る。
『江戸の夢』は昨年の鈴本でのトリの芝居で聴いたっけ。主人公である庄屋夫婦が江戸見物に来るのが新緑の頃だからだろう。
身元のはっきりしない男を婿養子に迎えたが、この婿養子が茶の木を育て茶を作ったので江戸の名店で鑑定をしてもらって欲しいと頼む噺。
途中で煎茶を立てるシーンがあるのだが、そこを丁寧に描く。お湯を急須に入れたり、その入れたお湯を他の容器にあけて入れ替えたり、茶碗に三度に分けて茶を入れたりと、昔に確かそんな入れ方を教わったような気がするのだが、それをちゃんとやっているようだ。多分鼠尾馬尾鼠尾もちゃんとやってる。多分。
サゲのセリフを言った後にたっぷりと余韻を残して頭を下げ、それがまた爽やかな印象を残す。

『笑点』の新メンバーは晴の輔師ですか。宮治一之輔と二ツ目時代に追いかけてた人が連続してレギュラーになったので結構な衝撃だったのだが、晴の輔師は全然聴いてないのでなんというか特に感想が……。まあぶっちゃけ兼好師じゃなくてよかった。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:芸能

十代目入船亭扇橋の"一語一会" 独演会 [落語]

十代目入船亭扇橋の"一語一会" 独演会
於:中野 なかの芸能小劇場

入船亭扇橋『たらちめ』『替り目』『ねずみ』

昨日抜いた歯が痛むかと思ったら全然そんなこともなく。まあもともと神経まで抜いてた歯だからそれほどダメージがないのか。しかし永久歯が生えてから今まで30年以上あった歯がそこにないというのはなんだか妙な感じ。ダイレクトに歯茎に舌が触れるというのもなんだか気持ち悪いというか。

歯が痛むかと思って念のため予約は入れていなかったのだが、特にそんなこともないので落語へ。
当日券なので入場が落ち着くまでロビーで待っていたら後ろに並ぶ気配が。誰かと思えば汗だくで息を荒げた扇橋師だった。そんなにギリギリの楽屋入り?

一席め、「この会は『師匠・大師匠のネタを一席ずつ』という縛りがある。前回も言ったんですが、私は大師匠から噺を教わったことがないですから、大師匠のネタってのは師匠から教わってるわけです。だから下手するとどちらも師匠のネタになってしまう。なので今は師匠がやってない噺をやらなきゃならない。12月にこの会の3回めがあるようですけど、それくらいまではできるけどあとはどうなるか……。なにを言いたいかというと、この会はいつものように好き勝手にできないということです」とどうにもネタ選びが難しいそう。
「しかも花が満開のときに。桜が咲いてるのを見て『そうだ落語聴きに行こう』ってならないじゃないですか。なのにきていただける。今は春休みなんで、寄席もお子さんが結構入ってるんですよ。寄席なんて悪所ですから、ネタ選びなんかも困るんですよ。ヒザの太神楽の人たちが『師匠、大変です。この列全部お子さんです』って報告を聞いたトリの師匠が一回楽屋に戻ってきましたからね。『どうしよう』って。で、結局『明烏』やってましたからね。トルコ風呂からソープランドに名称が変わったときの話をマクラにして。……いいですね、昼だとこれだけで引く感じ。……で、最前列でお孫さんを連れてきたお婆ちゃん、ずっとこうして上を向いて顔に手を当ててましたからね。お孫さんからの質問を全部無視。……すごいな小袁治師匠……」。まあ寄席に連れてくるほうが悪い。
夫婦の話にもなり、扇橋師のご両親は家で商売をしていたこともあって常に一緒で、さらに口調もかなり喧嘩腰だったという。両親の次に「夫婦」と接するのは師匠夫婦だったそうだが、自分の両親との違いに驚いたそう。「仲はいいんですが、必要以上に触れ合わないというか、干渉しない。喧嘩もほとんどしない。私が見た中では3回ですかね、『あ、これは喧嘩してるな』と認識したのは。でも大体は師匠がおかみさんから怒られてるんですよ、お酒のこととかで。理路整然と。これが芸人として一番ツラい怒られ方。で、こんこんと詰められて『以上!』っていっておかみさんは自分の寝室へ行ってしまう。その日は酒は飲まないと決めてたんですが、師匠が『おいビール出せ』って。弟子ですから拒否権はありませんよ。『はい』っていってビール出して。『お前も飲め』って。缶ビールあけて飲もうとしたら『バカ、湯呑みにあけて飲め』って。もう『親子酒』なんですよ。でふたりで飲んでたらおかみさんの部屋の扉がバーンって開く音がして。初めてですね、師匠とアイコンタクトして湯呑みをテーブルの下に隠したのは。『言い足りないことがあった』というおかみさんの小言をふたりでビールを隠しながら聞いてました。……このあと師匠の会が続けてあるんですけど、残られる方、絶対師匠には言わないでくださいね!」。言わないけど書いちゃった。まあ扇辰師がこんなところ見るはずもないし。
夫婦の話から『たらちめ』に。そういやふと思ったのだが最近「へえ、カミさんなんてもらうと儲かるのかねえ。それなら4~5人まとめてもらおうか」というくすぐりを聞かなくなったなあ。これも最近の風潮から言いにくくなったのか。
さておき、扇橋師の『たらちめ』はいかにも入船亭らしいというか端正というか正統派。隣の婆さんと仲が良い描写が多いのは微笑ましい。

「よってくだんのごとし」で拍手が起きるも、そのまま「……ってあの当時はいってたのになんで今はそんな言い方をするの!」と『替り目』の酔っぱらい亭主がおかみさんに不平を述べるシーンに。どうやら『たらちめ』の若夫婦が時を経て『替り目』の夫婦となったらしい。
おかみさんの小言に対して「あの頃はそんな言い方をしなかったのに」とつらつらと女々しく恨み節を並べる姿がおかしい。
「あの頃は『おめえのカミさん何いってるかわからねえな』『俺もわからねえんだ』って友だちとも言ってたのに」のようなサイドストーリー的な描写が出てくるのも面白い。
「思いつきでやるんじゃなかった」と言っていたが、珍しいものを聴けて楽しかった。

三席め、「仲入りのときに席亭から『師匠の落語協会のページに"師匠、大師匠のネタを自分らしくやったりやらなかったりします。"って書いてあったから企画したんですけど。それとこの会8月にもありますから』って理路整然と叱られました」。
「こないだ『入船四景』という会がありまして、扇遊師匠とウチの師匠、扇蔵アニさんを私というメンバー。いやあ入船亭は余計なことを言わないなと思いました」だそうで。まあ確かに扇橋師はマクラ長いけど、他の師匠方はスッと噺に入るイメージ。
「そのあと扇遊師匠が『打ち上げいくか、軽くだよ』といってくれたので人形町で飲んだ。珍しく終電前に『じゃあ帰るか』となったんですが、駅前にカラオケがあるのを扇遊師匠が見つけちゃった。『……おや?』って本当に言いましたからね。扇遊師匠はカラオケ大好きで、師匠も『じゃあ行きますか』って。『一時間だけな』っていいながら結局帰ったのは朝5時でした」。オールで飲むとか噺家の体力すげえな。
「前座の頃にも連れてってもらったことがあって、『お前も歌え』って一曲だけ歌ったことがあった。次の日お礼を言いにいったら、『お前な』と小言ですよ。何言われるのかなとビクビクしてたら、『あそこは”が”じゃなくて”んが”だ』。私が扇遊師匠に最初に稽古つけてもらったのは鼻濁音です」。
『ねずみ』は扇辰師もよく掛けるのでこれが「師匠の噺」なのかな。あの形の『替り目』はオリジナルだろうから『たらちめ』が「大師匠の噺」ということだろうか。
話し方や間のとり方などもやはり扇辰師に似てるなーと思う。とはいえ『ねずみ』は柳家の人たちで聴くと皆似ているので、先代の影響が大きいのだろうか。そこら辺の事情はわからないので勝手なことはいえないが。
タグ:入船亭扇橋
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:芸能