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第五十九回 よこはま落語会〜未来の大看板を応援する会〜 春風亭一之輔・桂宮治の会 [落語]

第五十九回 よこはま落語会〜未来の大看板を応援する会〜 春風亭一之輔・桂宮治の会
於:戸塚 戸塚公会堂

春風亭貫いち『桃太郎』
桂宮治『権助魚』
春風亭一之輔『新聞記事』
桂宮治『狸伯』
春風亭一之輔『子別れ(下)』

今日は昼夜公演。
兼好師の会が終わって1時間半ほど開くのでファミレス で時間を潰す。いつもの会場だったら周りに何もなくて大変だったかもしれん。

二人会なので前座の後は一之輔師だろうと思ったら宮治さんが登場。じゃあトリを取るのかと思ったら宮治一之輔宮治一之輔の順になったという。
まあいろいろと言っていたけれども、詰まるところ真打披露興行のチケットがあるのだけれどもこのご時世で会場の受付などで売ることができない、けれども「たまたま戸塚公会堂の周りを歩いていた僕からチケットを購入するのは何も問題ないわけです。だから僕は落語終わったら着替えてこの周りを歩いていようかなあーって」。大変ですなあ。
「こういうこと落語協会じゃ絶対できないけど、俺は芸協だからいいの! 今日の昼に師匠との親子会で『お金ください』って言ったら師匠は大笑いして『私も欲しい』って言ってたから! 粋じゃないのが芸協だから!」と芸協を免罪符に言いたい放題。いいのか。……こう考えると芸協からするとホント遊馬師って逆に異質だよなあ……。
そんなこんなで『権助魚』に入るが、まあ粗いったらない。粗いよ! ……とはいえこの粗いのを勢いでねじ伏せてくってのが宮治スタイルなワケで、そこをゴチャゴチャいうのは野暮なんだろう。粗かろうがなんだろうが理屈抜きで面白いんだからまあいっかあーと納得させるだけの勢いがある。

一之輔師の一席め、ブツブツと宮治さんへの苦言というか「アイツなんなんだ」というような苦情というか。
「でもまあ来てもらってありがたいですよ。こういうのに来てくれるっていうのがいちばんの応援ですから。来てくれるお客様にお礼に何か差し上げたい。でも楽屋には湯呑みが3つあるくらいで何もないんですよね。でもなんかチケットがあったんでこれを皆さんに配ろうと思います」と懐からチケットの束を取り出す。それって……と思ったところで血相を変えた宮治さんが飛び出してくる。「ちょっと! 川上さん! 何してんすか! それで親子がメシ食うんですから勘弁してください!」と土下座をする宮治さんと「もっと頭を下げろ」ともはや鬼畜の所業の一之輔師。
ようやくチケットを取り返すも、「次のお前の出番の間に半券全部切っといてやる」「やめろ! そのいじめっ子気質なんとかしろ!」とガチ苦情の悲鳴を上げる。「……そんな簡単に気質変えらんないよ。一生こうだよ」とポツリ。うわあ。
その後も延々と宮治さんをイジり続けたところ、ステテコ姿の宮治さんが「もう噺に入ろう! ね!」と再び乱入してくる。「これ以上まだやるなら次は全裸で出てくるからな!」と捨て身の脅迫。苦笑しながら「あんなに芸協芸協って言っておきながらこっちが『芸協は……』っていうと怒るんだよ。なんなんですかね。……じゃあ芸協っぽい噺やろうかな」と『新聞記事』に入る。なんかわかる。『新聞記事』と『動物園』てすごい芸協のイメージ。
『新聞記事』はもともとドタバタな噺だけれども、一之輔師のはそれに輪をかけたもはやスラップスティックな一席になっている。小難しいこと一切ナシ、ただただバカバカしい噺をひたすら笑って聴くという、そんな落語らしい落語だと思う。
いつまでもご隠居に担がれたことに気がつかずに「竹さんが死んだ」と嘆いている八っつぁんがたまらない。

宮治さんの二席め、マクラも振らずに「お後の一之輔兄さんがたっぷりやりますんで……。……早く終わらせて早く着替えて準備しないと!」とチケット手売りに意欲を見せる。
最初は『狸賽』か『狸札』かと思ったのだが……。狸がなんにでも化けられると聴いたときに「え、じゃあ神田伯山って知ってる?」「テレビで人の悪口ばっかり言ってる講談師ですよね?」「アイツに化けられる? ○年○月のアイツが初めて楽屋に入ったときに小言いったときのアイツの反応できる?」「はい。……ふっ」「うわー似てるー! その何言っても鼻でしか笑わない感じー!」……ていうのを延々繰り返していく。中には某お姐さんにひっぱたかれたときのエピソードとか。えーあのあんな優しそうな感じの人がひっぱたくんだ。……というかこれがホントならちょっと性格悪すぎじゃね?

一之輔師の二席めは一転してしっとりとした人情噺寄りに。
この振れ幅たるや。やっぱりこういうところが一之輔師はすごいよなあ。
ふたりがよりを戻す場面はなかなかに感動的。

終演後には予告通り宮治さんが会場の外でチケットを手売りしていた。せっかくなので私も一枚購入する。「あっ、いつもありがとうございます」といわれて少し驚く。宮治さんの会は小さい会場のも結構行ってはいるけれど、打ち上げとか行って個人的に話したことはないので認識されているとは思わなかった。萬橘師のときもそんなことあったし、結構噺家はよく来ている客のことはわかっているのだろうか。
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第五十八回 よこはま落語会〜未来の大看板を応援する会〜 三遊亭兼好独演会 第十幕 [落語]

第五十八回 よこはま落語会〜未来の大看板を応援する会〜 三遊亭兼好独演会 第九幕
於:戸塚 戸塚公会堂

三遊亭兼好『寄合酒』
三遊亭しゅりけん『猫と金魚』
三遊亭兼好『目黒の秋刀魚』
三遊亭兼好『三枚起請』

今日はいつもの会場と変わって少し大きめのホールで開かれる。一席おきの市松模様で、客の人数自体はいつもと変わらないくらい。

兼好師の一席め、この会場は兼好師も初めてだという。いつもは横浜方面の仕事の時はバスで鶯谷まで行き、そこから京浜東北線で向かうそうだが、不安に思ってスマホで検索してまたら間に合わないことに気づいたとか。「戸塚って思ったより遠いのね」。上野東京ラインに乗り換えたら早く着いたとのこと。じゃあ同じ電車乗ってたのかもなあ。
今まで知らなかった会場へ行ったり、コロナのおかげで新しい発見があるという。学校寄席では来賓挨拶がなくなり、これがすごくいいとか。今までの慣習でやってたことをやめてみたら、いかに無駄なことをやっていたか気づいたとか。
「そんな中で、年末の紅白は無観客でやるんですって。……あれはやめるチャンスでしたよねえ」。まー確かに。俺は元から長渕でも出ない限り見てないし、なくても全然困らないんだけど。
「今は『レディースアンドジェントルメン』という言葉でさえやめようっていうジェンダーレスの時代に、男と女に分けて戦わせるって。しかも『合戦』って関ヶ原以降使われてませんよ。負けた方の大将が首斬られるとかならわかりますけど」。一気に血生臭い感じに。
「とはいえ年末に老若男女が一緒に見られるような番組も必要なんでしょう。人間は集まる動物で、特に日本人は狭いところに集まるのが好きなようですから」と長屋のひと部屋に人が集まる噺に入る。
お弟子さんたちのはひと通り聴いたが、兼好師のは初めてかも。
「角の乾物屋」がひどい被害に遭う噺だが、鯛だけは魚屋の金公がターゲット。しかし兼好師にかかると「猫に鯛を持っていかれた」のは「乾物屋のカミさんとおしゃべりに夢中になっていたから」とおかみさんも巻き込んでしまう。これで一家全員コンプリート。
この他にもいろいろと盗品を持ち込んでくる輩たちと兄貴分とのやり取りの間がなんとも絶妙で面白いのなんの。噺自体は聴き飽きていてもやはり新鮮に面白い。

しゅりけんさん、兼太郎さんと一緒に帰るときがあり、その日は兼太郎さんは高座があまり納得いかなかったようでダウナー系だったそうだ。そんなときに「お前は俺が順風満帆にきてると思うか!?」と尋ねられ、どう答えても面倒なことになる……と「会話が噛み合わない」ことに困った、というところから『猫と金魚』に。……うん、その話の持って行き方もちょっと噛み合わなくてよくわからないけれども。
ちょいちょい改変されていてあまり聴かない型。番頭さんのアスペっぷりがやや弱いか。これも多分間ひとつでだいぶ変わるんだろうなーと思う。
しゅりけんさんはこの番頭みたいな「真面目なバカ」が似合いそうなので是非磨いてほしい。

兼好師の二席め、「『猫と金魚』の噛み合わなさ、私と弟子みたい」となぜか嬉しそう。
魚河岸で働いていた頃の話になり、売れ残ったものは「持っていきな」といろいろ貰ったそうだ。ナマコをもらったときはさばき方を教わって3時間かけてさばいたとか。それをずっと見ていたおかみさんは「私食べないから!」と見ていただけだそうだが。
ウニは身だけが箱に入っているのだが、これを少しでもぶつけたりして中身がズレたりするともう売り物にならないのだそうで、運ぶときは細心の注意を払っていたとか。「10箱運んでいるときにぶつけたりすると弁償ってことになるので気をつけるんですが、ひと箱だけだと『何やってんだ!……しょうがねえ、持ってけ!』となるんで、お客さんがくるときとか……」。いいなあ。
魚つながりで「今年は秋刀魚が高い」となって『目黒の秋刀魚』に。
これまた初めてか記憶にないくらい久しぶりか。初めてってことはないかもしれないが。
殿様の駄々っ子ぶりがやけにかわいい。
棒焼きの秋刀魚を食べるときも「ひっくり返せ」「代わりを持て」と殿様のままなのも面白い。
帰城した後に金弥との会話で「近頃目黒に行かんのう」と会話する際のお互いの顔芸もおかしい。

三席めの『三枚起請』も久しぶり。
カラスは賢くて人の顔をよく覚えてるといい、「私もよくゴミ出ししてますから覚えられてる。私が出かけると『カー』と挨拶してくるカラスがいる。するともう少し遠くの方からそのカラスに向かって『カァーッ!』と鳴くカラスがいる。おそらくつがいなんでしょうね。『アンタ、そんな人間に挨拶なんかするんじゃないよ!』かなんか言われてるんじゃないですか。『お前も大変だな』って声を掛けます」。
やはりこの噺も、嫌がるいのさんから起請文を取り上げて大人の余裕を見せながら読んでいたところ、その起請文を出したのが自分の敵娼だと気づいたときの間とリアクションが完璧。何度聴いても必ず笑わされる。
その後の棟梁から滲み出る諦観の雰囲気がまた哀愁を帯びていてお見事。
花魁から甘いことを言われて一緒やに下がる表情もまた楽しい。
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