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第9回 兼好集 [落語]

第9回 兼好集
於:浅草 浅草見番

三遊亭けろよん『つる』
三遊亭兼好『祇園祭』
春風亭㐂いち『しの字嫌い』
三遊亭兼好『お菊の皿』
三遊亭兼好『船徳』

最近家の水道をひねると給湯器も使っていないのにお湯が出てくる。普通にシャワーとして浴びても全然平気なくらい温かい。それだけ地中近くの水道管の水が温められているんだろうなあ。しばらくおいといたら冷たくなるかと思ったら全然冷たくならない。蕎麦とかうどんを茹でても冷水での締めができない。こんなん初めてだなあ。

前回までは日本橋劇場でやっていた兼好集だが、今回は浅草見番。ここに来るのも久しぶりだ。

けろよんさん、やっぱり上手いなあ。前座としては他の協会でもここまで上手いのはなかなかいないのではと思う。聴きやすいし間のとり方もいい。まだ先の話だが、二ツ目になったらどういう進化をするのか興味深い。

兼好師の一席め、浅草見番は前座の頃に好楽師の鞄持ちで着たことはあるが高座に上がるのは初めてだという。「いいですねえ、趣があって。どうやら雲助師匠がここが大好きだそうで、そう考えると国宝に近づけたような気がします。もっとも自転車でこられるからなんだそうですが……。それから萬橘くんもここでやってるそうで。そうなると私もゆくゆくは汚くなるかも……」と相変わらずの萬橘師いじり。
昨日の高校野球に触れ、「なんですかね……。いいんですよ、もちろん素晴らしいことなんですけど、なーんかこうモヤモヤするというか……。ねえ、こう髪の毛サラサラーってして陽にも焼けてなくて、爽やかで、『エンジョイ!』なんて言っちゃって。『練習は一日2時間しかしません!』で実際に優勝までした。彼らはとても素晴らしいんですけど、でもなんかモヤモヤするんです。わかりますよ、高校球児はなにも考えずに『ばっちこーい』とかいってる時代ではないのです。しかし、彼らはここがピークではないのです。だって彼らは野球があろうがなかろうが慶應なんですよ。これから大学に入って、一流企業なんかにも入っちゃって、40代50代で大きなプロジェクトを任されて、そのときに『えっ、部長ってあのとき甲子園で優勝した……?』なんて言われ続けるのです。一方破れた方はどうですか。50代になって近所の居酒屋で『この人甲子園に出たことあるんだよ』って言われるときが人生のピークなわけです。どうですか」。そういわれましても。
「まあでもこれは僻みなんでしょうねえ。自分がそんなに僻みっぽいとは思いませんでしたけど……」と誰しも自分にないものに対して僻みがあるところから『祇園祭』に。確かにこれはお互いがお互いの地にコンプレックスがあるからこその意地の張り合いなのかもしれない。
京の男のネチネチとした話しぶりが凄まじく、それだけで笑いが起きる。これだけで底意地が悪いというのが伝わってくるんだからすごい。なにかいうと最後に怪鳥のような笑い声を出すのだが、これがイヤミな気分を洗い流してくれる。
また嫌味をいうときの一瞬の表情も見事。さらにそれを見て顔をひきつらせる江戸っ子の表情もまた素晴らしい。

㐂いちさん、余計な入れごとなどもなく、きっちりきっちりと堅実に聴かせる。しかしまあこの噺を聴くたびにこの清蔵という男はご主人相手にマウントを取って何がしたいんだろうと思う。雇い主凹ませていいことなんてなんもないのに。

兼好師の二席め、「夏といえば怪談ですが、今年の怪談といえばビッグモーターでしょう。夜な夜な工場の中で社長も預かり知らず靴下に入れたゴルフボールの音がゴーンと響き……、店舗の周りではなぜか街路樹が枯れてゆくという……」。兼好師は今年はほんとビッグモーターざんまいで楽しそう。
マクラの続きとして兼好師の口調のまま『番町皿屋敷』を語り、それが終わると「……とこれが『皿屋敷』だ」とご隠居のセリフとなって噺に入っていくのが兼好師の手法。こうやって入る人は他には知らない。
「じゃあ見に行こう」と連れ立った若い衆の中で、「やめようよ、お菊さん怖いよ。皿数えるんだよ!? 俺もこの間女房に『出かけてくるからお皿洗っといて』って言われてて洗ってたんだよ。そしたら女房のお気に入りの皿を一枚割っちゃって」……と話す男がおり、まあオチはすぐに読める恐妻家のくすぐりが入るのがいかにも兼好師らしい。
初回にお菊さんが現れたときに結構な大きな音で太鼓が鳴り、かなり驚く。というかその後すぐに三味線が入ったのでハメものとわかったが、楽屋でなにか落としたのかと思った。
舞台慣れし始めたお菊さんが、「なぜ恨めしいのに『鐵さん』とさん付けをするのかと言われましたが、それは名前であって敬称ではないのです」とマクラのような小咄をするのがおかしい。それがどんどん大掛かりになって寄席形式になっていくのが楽しい。前座がいて一つ目小僧が上がり(「一つ目小僧なのに階級は二ツ目」)、から傘お化けが太神楽、という隙のない顔付け。
お菊さんが変にアイドルっぽくなっていないのがいい。たまにやりすぎる人がいるけど、これくらいの「普通の酔っぱらい」になっている程度のほうが好き。

三席め、「夏が長くなったので、5月から10月くらいまで夏の話ができる。秋なんてホント短いので『目黒の秋刀魚』なんてやる暇がない。そうすると夏の噺を増やさなければならないんですけど、もう私は今年、夏の噺やり尽くしちゃった」。これは「同じネタは都内近郊ではひと月以上開ける」というマイルールを課している兼好師ならではの悩みだろう。同じ日の違う会で同じ噺を掛けるなんて他の人では珍しくもないし。
「で、手帳を見ていたら『あれ、この噺やってなかったっけ。本来なら最初にやるような噺なのに』っていうのががあったのでそれをやります」と『船徳』に。
若旦那が「船頭になりたい」と親方に直談判するときに「こないだ一緒に吉原に行ったことをおかみさんにバラす」と脅すのがおかしい。それが親方から呼ばれて仲間の悪事をペラペラと話す兄貴分を気取る男の入れ知恵というのがまた。
若旦那の船頭が船を出そうをいうときに、竿をさして踏ん張りながらお尻をプリッと突き出す仕草がこれまた楽しい。「まだもやってるじゃねえか」というツッコミに「おかみさんお願いします、手を汚したくないんで」というセリフに甘ったれで見栄っ張りの若旦那がよく現れているように思う。

次回は内幸町ホールだとか。開演時間は同じなのに、「終演時間が遅くなる」とわざわざ断りを入れてるってことは、なんか大物ゲストとか大掛かりなイベントとかが予定されているのだろうか。
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