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けんこう一番!第二十六回三遊亭兼好独演会 [落語]

けんこう一番!第二十六回三遊亭兼好独演会
於:春日 文京シビックホール

三遊亭兼好『黄金の大黒』
三遊亭けろよん『間抜け泥』
三遊亭兼好『目黒の秋刀魚』
江戸家猫八 動物ものまね
三遊亭兼好『茶の湯』

国立演芸場から文京シビックホールへ会場が変更になる。会社からも家からも微妙に行きづらいんだよなあ……。今日もまた会社を抜け出そうという間際にややめんどくさいメールがくる。退社前にやめてください。見なかったことにして会社を出る。明日の俺頑張れ。

兼好師の一席め、「会場が変わりまして……。でもまあこっちの方がいろいろ便利なんじゃないですか。国立演芸場もいいんですが、終演後にちょっとどこか行こうかとなっても行くところがない。中華とインドカレーくらい。国立なんだからせめて和食が欲しかったですね」。なんもなかったからなあ。
「ここは文京区なのに野球場があって馬券売り場があって遊園地もある。笑点の収録もしているという、文京区なのにガラが悪い、というのがいいですね」。巨人ファンはおとなしいですよ。他と比べれば。
「最近は明るい話題がなくて……。藤井くんくらいじゃないですか。ロシアもイスラエルも、戦争は将棋で決めればいいんですよ」。暴力はイヤだねえ。「そうしたら日本には藤井くんがいるんで、中国くらいは取れるんじゃないですか?」とニヤリ。いります?
「普通あれだけ強いと憎まれ役になるんですが、藤井くんはそうならなそうですもんね。謙虚ですし。将棋は棋士同士が切磋琢磨しているというのがいいですね。噺家なんて足の引っ張りあいしかしない。噺家がそうなんだから噺に出てくる登場人物も同じで、『みんなで頑張ってこの裏長屋から出ていこう』なんて連中は出てこない」とずいぶんアレな住人が揃っている『黄金の大黒』に。
最近若手が兼好師から教わったんだろうなーというのをよく聴くが、兼好師自身のは3年近くご無沙汰だった。
この噺に限らないんだけど、たくさんの人物が出てくる噺だと発言をしようとして「ハイッ」といちいち挙手するのがおかしい。手を挙げようかどうか逡巡するような素振りを見せるのも楽しい。
「承りますれば」が言えない金ちゃんが、勢いあまって「〜スミダ!」と韓国語になるのは初めて聴いたかも。
大家の子に手を焼く鉄さんが、「何をしや……してくれるのかなこのクソガ……坊ちゃんは……」と本音と建前が入り混じる顔と口調のグラデーションが素晴らしい。さすがにこれが再現できてる若手はまだ見たことがない。

けろよんさん、堅実だねえ。
好二郎さんもだったけど、さらに上をいく堅実っぷりな気がする。

兼好師の二席め、「海上保安庁がどこかの人が船で酒を飲んで怒られたそうですけど、非番だったらいいんじゃないんですか。あと釣りをして怒られたとか……。いざというときは食料にもなるんだしいいと思うんですけどねえ」。そのニュースは知らなかったけど、非番なら良さそうなもんだけど。
「最近は温暖化で魚が取れなくてサンマもすっかり高級魚になってしまって……。『目黒の秋刀魚』という噺は、『何にもない田舎で、世間知らずの殿様が下魚のサンマを食べる』というのが面白いんですよ。それが今じゃ目黒は高級住宅街でサンマも高級魚。若い人には『タワマンで高級魚を食べるなんて当たり前じゃないんですか?』なんてまるで話が通じなくてやりづらいんですよ」という愚痴からホントにそのまま『目黒の秋刀魚』に。ここまであらすじとか話したんだからまさか『目黒の秋刀魚』じゃないだろ、『権助魚』とかかな? という浅はかな落語ファンの思惑を真正面からブチ抜くこの潔さよ。そらあ最近ごくごく短くなった秋、やるなら今しかないもんなあ。
この噺の殿様がこれまでどれだけ甘やかされて育てられたかというエピソードが差し挟まれており、いかにもワガママな子どもっぽい殿様がかわいい。そのガキっぽい殿様を煽る家来も家来で面白い。

猫八先生、和装姿で高座の座布団の上に座る。春の襲名興行から始めたスタイルだそうで、見るのは初めて。襲名興行、1回くらいは行っておくんだったなあ。
黒紋付の羽織の紋は猫のイラストのようだ。
「このスタイルだといつもより理屈っぽいことをいいたくなる。たとえは落語の『つる』、『オスの首長鳥が"つー"と飛んできて浜辺の松の枝にポイととまった』とありますが、……鶴はあの足では枝にはとまれないのです!」。…………あーーー! あーーーー! 言われてみれば確かに……! うわー気づかなかったーーー!
「となるとどこかで勘違いがあったんでしょう。それで私は調べました。そしたら鶴の仲間で1種類だけ枝にとまれるのがいたんです! その鶴がいるのは……」とこれ以上は猫八先生の高座で当たることをお楽しみに。
最後はいつものようにフクロテナガザルの「両足のふくらはぎが同時に攣ったオジサンの声」で〆るが、ここでももう一段階オチを加える。

兼好師の三席め、「猫八先生はさすがですね。すでに『あれ、前の名前なんだったっけ』と思うほど『猫八』の名前に馴染んでいる。まあ三席めは『つる』をやろうと思っていたのに、それを潰されてしまったんですが……」って三席めでさすがに『つる』はないでしょうが。
「動物は喋れないので、その分『敵意はない』とか『縄張りから出ていけ』とかの声の出し方などの作法が決まっている。作法というのは覚えるまでが大変ですが、一度覚えてしまえばあとは考えなくてもいいのでラクなんだそうで」と作法の塊である茶の湯の噺に。
小僧の定吉が大旦那にも臆せず「え、大旦那が茶の湯を知らないはずないですよね、子どもである蔵前の旦那さんが知ってるのに」などとガンガン詰めてくるのが面白い兼好師の『茶の湯』だが、その定吉にトンデモな茶の湯を飲ませ、悶え苦しむ様子を見てニヤリと腹黒い笑みを抑えきれないご隠居がたまらない。この表情を見るだけでカネを払う価値があります。いやマジでマジで。
この表情もそうだが、初めての点茶で椋の皮を入れたときのご隠居の驚きの表情が素晴らしい。何も言わないのに、ただ目を見はる仕草だけでこれだけ面白いというのはなかなかないんじゃなかろうか。

あー……明日の仕事やだなあ。明日の俺に今から同情するし、気が重いなあ。こんなに面白い噺聴いたのにね。
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